「エアコンの効きが悪い」「冷凍ショーケースの温度が上がってきた」——もしかしたら、それは冷媒ガス漏洩のサインかもしれません。冷媒ガスの漏洩は、放置すると設備の故障だけでなく、フロン排出抑制法違反で50万円の罰金にもつながります。しかし、適切な方法で早期発見・迅速修理すれば、被害を最小限に抑えられます。本記事では、冷媒ガス漏洩の特定方法から修理完了までの流れを、現場で使える実践的なノウハウとともに徹底解説します。
冷媒ガス漏洩を見逃すな!5つの危険サイン
漏洩を早期発見するには、日常的な観察が重要です。以下のサインが見られたら、すぐに点検しましょう。
冷房・暖房の効きが明らかに悪化
- 設定温度まで下がらない(上がらない)
- 常温の風しか出ない
- 以前より明らかに時間がかかる
冷媒ガスは熱を運ぶ役割を担っています。ガスが不足すると熱交換ができず、単なる送風状態になります。これは冷媒ガス不足の最も典型的なサインです。
室外機から異常音や振動
- いつもと違う異音(ガタガタ、キーン)
- 過度な振動
- 通常より高い動作音
冷媒ガスが不足すると、コンプレッサーに過度な負荷がかかります。この状態で運転を続けると、高額なコンプレッサー故障につながる危険があります。
配管や熱交換器に霜・氷が付着
- 室外機の配管接続部に霜
- 室内機の熱交換器に氷
- 運転停止後、霜が溶けてもすぐ再発
冷媒ガスが減少すると、熱交換が正常に行われず、異常な低温部分が発生して霜が付きます。ただし、ガスがほとんど抜けている場合は霜すら発生しないため、「霜がない=漏洩していない」とは限りません。
配管接続部に油のにじみ
- 配管のフレアナット周辺に油分
- 室外機の開閉バルブ付近に油
- 圧縮機周辺の配管に油汚れ
冷媒ガスには潤滑油が混入しています。ガスが漏洩する箇所には、必ず油もにじみ出ます。油のにじみは漏洩箇所を特定する重要な手がかりです。
ただし、過去の保守点検や修理時に付着した油の可能性もあるため、油のにじみ=必ずガス漏洩とは限りません。専門機器での確認が必要です。
電気代の異常な上昇
- 使用頻度は同じなのに電気代が高い
- 設備が長時間動き続ける
冷媒ガスが不足すると、設定温度に達するまで時間がかかり、機器が長時間フル稼働します。その結果、運転効率が大幅に低下し、電気代が跳ね上がります。
漏洩箇所を特定する6つの方法
漏洩の疑いがある場合、次は漏洩箇所の特定です。状況や設備に応じて、適切な方法を選びましょう。
方法1:目視点検【基本中の基本】
- 配管の接続部(フレアナット周辺)
- 室外機の開閉バルブ
- 室内機・室外機の熱交換器
- 配管の曲げ部分や溶接部分
確認ポイント
- 油のにじみ、変色、腐食
- 配管の損傷、へこみ、ひび割れ
- ナットの緩み
目視だけでは微量な漏洩は発見できませんが、大きな損傷や明らかな異常を素早く発見できます。点検の最初のステップとして必ず実施しましょう。
方法2:発泡液(石鹸水)テスト【コスト0円の簡易検査】
必要なもの
- 中性洗剤
- 水
- スプレーボトルまたは刷毛
手順
- 中性洗剤を水で薄める(洗剤:水 = 1:10程度)
- 疑わしい箇所(配管接続部、バルブ周辺)に薄めた洗剤液を塗布
- 2〜3分待つ
- 泡が発生するか観察
判定
- 泡がブクブク発生 → ガス漏洩確定
- 泡が発生しない → その箇所は問題なし(他の箇所を確認)
発泡液テストは、配管の外部からアクセスできる箇所の漏洩を簡単に確認できる方法です。専門機器がなくても実施でき、その場で結果がわかります。
- 室内機内部など、アクセスできない箇所は検査不可
- 微量な漏洩は発見できないことがある
方法3:ハンディ型ガス検知器【現場での必携ツール】
代表的な製品
使い方
- 検知器の電源を入れ、清浄な空気でゼロ校正
- センサー部を漏洩疑い箇所にゆっくり近づける
- 警報音や表示濃度で漏洩を判定
- 複数箇所を順番にチェック
メリット
- 微量な漏洩(10〜30ppm)も検知可能
- リアルタイムで濃度表示
- 配管の広範囲を短時間で調査できる
主な検知方式
- 半導体式:感度が高く、多くの冷媒に対応。長寿命で安定性が高い
- 赤外線式:特定の冷媒に特化した高精度検知
- 放電式:従来冷媒(R22など)の検知に最適
ハンディ型検知器は、点検作業や漏洩箇所の特定に欠かせません。定期点検の義務化により、多くの事業者が導入しています。
方法4:電子式リークディテクター【プロ仕様の高精度検知】
ハンディ型よりもさらに高感度な電子式検知器もあります。フィガロ技研のTGS2630など、高性能センサーを搭載した製品は、数ppmレベルの微量漏洩も検知できます。
用途
- 大規模施設の定期点検
- 漏洩箇所が特定できない場合の精密調査
- 法令遵守のための定量測定
方法5:気密検査(窒素加圧試験)【最終手段の確実な方法】
ハンディ型検知器でも漏洩箇所が特定できない場合、気密検査を実施します。
手順
- 専門業者が冷媒ガスを全量回収
- 配管・機器内に窒素ガスを規定圧力で封入
- 一定時間放置して圧力変化を測定
- 圧力が下がれば漏洩あり
- 発泡液や検知器で漏洩箇所を特定
- 修理後、再度気密試験で確認
メリット
- 微小な漏洩箇所も確実に特定できる
- 窒素ガスは無害で安全
- 修理の確実性が高い
デメリット
- 時間とコストがかかる(数時間〜1日)
- 専門業者への依頼が必須
気密検査は、配管内部や隠蔽部分の漏洩を確実に発見できる最も信頼性の高い方法です。
方法6:常時監視型ガスセンサー【24時間365日の自動検知】
新コスモス電機CHR-100P、三菱電機フロンガス警報器、押野電気取扱いのセンサーシステムなど、定置型の冷媒ガスセンサーを設置すれば、漏洩を自動的に検知できます。
メリット
- 人間が気づかない微量な漏洩も即座に検知
- 警報で異常を通知
- フロン排出抑制法の簡易点検の代替として認められている(2022年改正)
設置が推奨される場所
- 機械室(空調機、冷凍機の設置場所)
- スーパーのバックヤード
- 冷凍倉庫
- データセンター
定置型センサーは初期投資が必要ですが、漏洩の早期発見、法令遵守、設備保護の観点から非常に有効です。
冷媒ガス漏洩の修理方法と流れ
漏洩箇所が特定できたら、次は修理です。漏洩箇所や原因によって修理方法が異なります。
ステップ1:漏洩原因の確認と診断
修理業者が現場を訪問し、以下を確認します。
- 漏洩箇所と原因(配管損傷、ナットの緩み、腐食、バルブ不良など)
- 冷媒の種類と規定充填量(室外機の銘板に記載)
- 機器の設置年数と全体的な状態
- 追加充填量の記録(設置時の記録があれば確認)
この診断結果に基づいて、修理方法と費用の見積もりが提示されます。
ステップ2:漏洩箇所の修理
原因別の代表的な修理方法をご紹介します。
【原因1】配管接続部のナット緩み・フレア不良
修理方法
- ナットを適正トルクで締め直し
- フレア加工不良の場合は、配管を切断して再フレア加工
- 専用のトルクレンチで規定トルクで締付け
費用目安: 15,000円〜25,000円
【原因2】配管の損傷・腐食
修理方法
- 損傷部分の配管を切断
- 新しい配管と交換または溶接修理
- 広範囲の腐食の場合は配管全体を交換
費用目安: 20,000円〜50,000円(配管長による)
【原因3】開閉バルブの不良
修理方法
- バルブ本体の交換
- パッキン・シール材の交換
費用目安: 10,000円〜30,000円
【原因4】熱交換器の腐食・ピンホール
修理方法
- 熱交換器の交換(室内機または室外機ごと交換が必要なケースも)
- 溶接修理(可能な場合)
費用目安: 30,000円〜100,000円以上
熱交換器の交換は高額になるため、機器の年数によっては買い替えを検討した方が経済的な場合があります。
ステップ3:真空引き(エアパージ)
修理が完了したら、配管内に混入した空気や水分を除去する「真空引き」を実施します。
手順
- 真空ポンプを配管に接続
- 配管内を真空状態(-0.1MPa程度)にして一定時間保持
- 真空度を測定し、規定値に達していることを確認
重要性
- 配管内の空気や水分は冷媒システムに悪影響を与える
- 真空引きを怠ると、冷却性能の低下やコンプレッサー故障の原因に
費用目安: 5,000円〜10,000円 所要時間: 30分〜1時間
ステップ4:冷媒ガスの充填
真空引き後、規定量の冷媒ガスを充填します。
充填方法
- 重量計による正確な計量:最も確実な方法
- マニホールドゲージによる圧力管理:運転状態で適正圧力を確認
充填量の計算
- 初期充填量(室外機の銘板記載)
- 配管長による追加充填量(1mあたり20〜30g程度、機種による)
- 合計充填量 = 初期充填量 + 追加充填量
費用目安
- R410A:2,000円〜5,000円/kg
- R32:2,000円〜5,000円/kg
- ガス補充料金は冷媒の種類と量により変動
設置時の追加充填量の記録が残っていると、作業時間の短縮とコスト削減につながります。報告書は大切に保管しましょう。
ステップ5:試運転と漏洩再チェック
ガス充填後、以下を確認します。
- 冷暖房が正常に機能するか
- 異音・異常振動がないか
- 修理箇所から再漏洩していないか(発泡液テストまたは検知器)
- 運転圧力が適正範囲か
問題がなければ修理完了です。
ステップ6:点検記録簿への記録
フロン排出抑制法により、修理内容と冷媒充填量を点検記録簿に記録する義務があります。
- 修理実施日
- 漏洩箇所と原因
- 修理内容
- 充填した冷媒の種類と量
- 実施業者名
この記録は3年間保管が義務付けられています。
修理費用の目安と買い替え判断
冷媒ガス漏洩の修理費用は、漏洩箇所や修理内容によって大きく異なります。
修理費用の内訳
一般的な費用構成
- 出張費・点検費:5,000円〜15,000円
- 漏洩箇所の修理費:10,000円〜50,000円
- 真空引き費用:5,000円〜10,000円
- 冷媒ガス補充費:2,000円〜5,000円
- 合計:22,000円〜80,000円
高額になるケース
- 熱交換器の交換:50,000円〜150,000円
- 配管全体の交換:50,000円〜100,000円
- 室外機ごと交換:100,000円〜300,000円
買い替えを検討すべきケース
以下の場合は、修理よりも買い替えの方が経済的な可能性があります。
買い替え推奨の判断基準
- 設置から10年以上経過している
- 家庭用エアコンの寿命は10〜13年
- 業務用は使用頻度により8〜15年
- 修理費用が新品価格の50%以上
- 例:修理費8万円、新品エアコン15万円 → 買い替え検討
- 熱交換器やコンプレッサーの故障
- 修理費が非常に高額
- 修理しても他の箇所が近いうちに故障する可能性
- 複数箇所で同時に不具合
- 修理費が累積して高額に
- 旧型の冷媒(R22など)を使用
- R22は製造・輸入禁止で入手困難
- 冷媒価格が高騰している
保証期間の確認
修理を依頼する前に、以下を確認しましょう。
チェック項目
- メーカー保証期間内か(通常1〜3年)
- 延長保証に加入しているか
- 施工保証が適用されるか(設置後1年以内など)
保証期間内であれば、無償または低額で修理できる場合があります。
自分で修理はできる?【結論:やめておくべき】
冷媒ガスの補充キットなどが通販で販売されていますが、素人による冷媒ガス補充は強く非推奨です。
DIY修理をおすすめしない理由
1. 専門工具が必要
- 真空ポンプ:50,000円〜
- マニホールドゲージ:20,000円〜
- トルクレンチ、フレアツール:各数千円〜
- 冷媒ガスボンベ:10,000円〜
- 合計:10万円以上
数回の作業では元が取れず、業者に依頼する方が安くつきます。
2. 技術と知識が必要
- 適正な冷媒充填量の計算
- 真空引きの手順と基準
- 漏洩箇所の正確な特定と修理
- ガス圧の測定と調整
これらを誤ると、エアコンが故障したり、最悪の場合、コンプレッサーが破損します。
3. 安全リスク
- 高圧ガスの取扱いによる事故
- 不適切な作業による火災(微燃性冷媒の場合)
- フロン類の大気放出は法令違反(1年以下の懲役または50万円以下の罰金)
4. 根本的な解決にならない
漏洩箇所を修理せずにガスだけ補充しても、再び漏洩します。結局、専門業者に依頼することになり、二度手間です。
自分でできる対応
修理は業者に任せるべきですが、以下は自分でできます。
DIY可能な対応
- フィルターの清掃
- 室外機周辺の障害物除去
- 発泡液テストによる簡易的な漏洩確認
- エアコンの電源リセット
これらで改善しない場合は、速やかに専門業者に相談しましょう。
信頼できる修理業者の選び方
冷媒ガス漏洩の修理は、技術力のある業者に依頼することが重要です。
業者選定のチェックポイント
1. 資格・認定の確認
- 冷媒フロン類取扱技術者(第一種・第二種)
- 電気工事士
- 高圧ガス製造保安責任者
2. 実績と評判
- 施工実績の豊富さ
- 口コミやレビュー
- 地域での評判
3. 見積もりの明確さ
- 作業内容の詳細な説明
- 費用内訳の明示
- 追加費用の有無
4. アフターサービス
- 修理後の保証期間
- 定期点検の提案
- 緊急対応の可否
相見積もりの重要性
複数の業者から見積もりを取ることで、適正価格を把握できます。
見積もり時に確認すべきこと
- 漏洩箇所の特定方法
- 修理の具体的な内容
- 使用する冷媒の種類と量
- 真空引きの実施の有無
- 作業にかかる時間
- 保証内容
価格だけでなく、説明の丁寧さや技術力も重視しましょう。
まとめ:早期発見・迅速対応が被害を最小化する
冷媒ガス漏洩は、放置すると設備故障、高額な電気代、法令違反といった深刻な問題につながります。しかし、適切な知識と対応があれば、被害を最小限に抑えられます。
- 5つの危険サインを見逃さない(効きの悪化、異音、霜、油、電気代)
- 漏洩箇所は発泡液テスト、ハンディ検知器、気密試験で特定
- 修理は必ず専門業者に依頼(DIYは危険かつ法令違反)
- 修理費用は2〜8万円が目安、高額なら買い替え検討
- 定期点検と冷媒ガスセンサーで予防
冷媒ガス漏洩の兆候を感じたら、すぐに専門業者に相談しましょう。そして漏洩を未然に防ぐために、冷媒ガスセンサーの導入も検討してください。早期発見・迅速対応が、コスト削減と設備保護、法令遵守の鍵です。

